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相続サポートセンターレポート

預金の無断引出し・使い込み問題について

2017年11月10日

  親が亡くなった後、遺産分割のために預貯金の調査をしたところ、知らない間に親名義の預貯金口座からお金が引き出されていたことが判明する場合があります。

 このように一部の相続人によって相続預貯金を使い込まれたことが疑われる場合に、他の相続人は相続預貯金を使い込んだ相手方に対して返還請求をすることができます。

 これは、不当利得返還請求権(民法703条)または不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)という法律上認められた権利に基づいた請求です。

 預貯金の使い込みは、その行為が相続開始前(死亡前)か相続開始後(死亡後)かに分けて考えます。

 

①被相続人の死亡前の引き出し・使い込み

 被相続人の死亡前の引き出し・使い込み行為は、「被相続人」の権利を侵害しています。

 相続人は、預貯金を無断で引き出した相続人に対し、被相続人から相続した請求権を行使して金銭請求を行うことになります。あくまでも権利を侵害された直接の被害者は被相続人で、相続人は、被相続人が権利を侵害されたことにより取得した不当利得返還請求権等の権利を相続したことになります。

 よって、相続人の不当利得返還請求や損害賠償請求権が認められるか否かは、被相続人の意思に反して預貯金が引き出されたかによります。

 

②被相続人の死亡後の引き出し・使い込み

 被相続人の死亡後の引き出し・使い込み行為は、「相続人」の権利を侵害しています。

 この場合は権利を侵害された直接の被害者は被相続人ではなく、預貯金を相続した相続人ということになります。 

 法定相続人が相続開始(死亡)と同時に法定相続分で預貯金を相続するので、他の法定相続人が自分の相続分を超えて下ろした行為は横領行為と想定され不法行為、不法利得となります。法定相続人は、自分の権利を侵害されたとして、損害賠償請求、不当利得返還請求ができます。

 

<使い込みが認められやすいケース>

 ◎引き出し金額が高額、引き出し回数が頻繁

→ 通常高齢者が生活するうえで、多額の金銭が必要になることは少ないため。

 ◎引き出し時期が死亡直前、死亡後

→ 死亡直前の場合は、金銭を必要とする事情がなく、死亡後は準共有する相続

 預貯金を他の相続人の意思に反して引き出したことになるから。

 

<使い込みが認められにくいケース>

 ◎引き出し金額が少額

→ 生活費に使用されたということが推測されるため。

 ◎現金保管されていた金銭の使い込みの場合

→ 例えば金庫に入れてあった現金の使い込みが疑われる場合に、金庫の中に現 

 金が保管されていたことを立証するのが困難なため。

 相続預貯金口座から高額な引き出しがされていることが判明しても、被相続人本人または被相続人から財産管理を任されて相続預貯金を引き出していた場合は、使い込みがあったと認められません。使い込みに対する返還請求が認められるためには、被相続人の意思に反して行われたということを立証する必要があります。

 したがって、裁判では相続預貯金を引き出した側(被告)としては、被相続人の生活費に使用するためにお金を引き出したということを反論しなければなりません。

 

 ☆被相続人の認知・身体状態がどのようなものであったかが重要

 引き出し当時の被相続人の状態に関する医師の診断書や介護施設の記録、カルテ等を取り寄せて確認し、例えば被相続人が重度の認知症だった場合、相続預貯金を引き出すことができる状態ではないため、本人の意思に反するものであると立証することができます。

 認知症にも程度があるため、認知症の診断があるということだけでは不十分で、被相続人が金銭管理ができる状態ではなかったことまで立証する必要があります。

 相手方の反論次第では、被相続人の認知状態が悪かったとしても、身体状態が健全であった場合は、被相続人本人が引き出し行為をできる状態だったと裁判所に判断される可能性があります。

 他方で、被相続人の身体状態が悪かったとしても、認知状態が健全である場合は、被相続人が他の相続人に引き出しを指示したうえで、被相続人が最終的に引き出した相続人から現金を受け取った可能性があり、本人の意思に反する引き出しではなかったと裁判所に判断される可能性もあります。

 したがって、被相続人の状態については、認知状態と身体状態を総合的に確認する必要があります。

 

<使い込みを認めた判例>

東京地裁平成28年8月25日判決

 被告が被相続人の財産を不当に取得したものであるとして、不法行為に基づく損害の賠償を、選択的に、悪意の受益者としての不当利得に基づく利得の返還を、いずれも原告らの相続分に応じた金額について求める事案について、被相続人の財産管理を一手に引き受けていた被告において、その使途等を具体的に明らかにできず、また、生前贈与と主張する金額相当分には根拠がないこととなるので、財産管理に違法性が認められ、法律上の原因なく被告が利得しているものと認められると判断した。

 

<使い込みを否定した判例>

東京地裁平成25年3月28日判決

 被告らが、本件通帳等を管理するに至った行為や同通帳から合計155万円を引き出した行為が、亡X1の意思に反して無断で行われた不法行為であるとは認められないし、これらの現金を自己の用途に支出した事実を認め得る的確な証拠がない以上、被告らによる不法行為であるとは認められないと判断した。

※被相続人の意思に反して預貯金を引き出したことが立証できれば、裁判では使い込みが認められる可能性が高いです。 

カテゴリ : 贈与 その他 相続トラブル 遺産分割 相続税

筆者紹介

柳沢 賢二
柳沢法律事務所
弁護士

一、弁護士として、依頼者のために、一つ、一つの案件について、専門家としての①専門性の高いサービスを、②迅速に提供することを心がけています。そして、常に依頼者のために、一つ一つの案件を全力で取り組んでいきます。

二、今、高齢者社会において、相続の問題は誰もが直面する重要な問題だと思います。今までの自分の人生の集大成を納得のいく形で終えれるように、残された家族の方々が困らないように、専門家として皆様の力になれる適切な解決方法の提案やアドバイスをしていきたいと思います。

三、相続の分野でも、紛争後の裁判所での訴訟業務だけでなく、紛争を事前に防ぐ予防法務的な視点から、遺言書の作成、任意後見・成年後見の活用、事業承継のアドバイスなどにも力をいれ、皆様の力になれるアドバイスをしていきたいと思っています。

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