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遺産分割協議について

2015.11.20

はじめに

 相続人が複数いる場合に、相続財産をどのように分けるかを相続人全員で話し合って決めることを「遺産分割協議」といいます。被相続人が死亡すると、相続財産は各相続人の民法の定める相続分に応じた共同所有の状態になります。遺産分割協議は、このように相続の開始によって、相続人の共同所有になっている相続財産を、各相続人の単独所有に移行させるための手続きです。

 なぜこの手続きが必要なのかというと、共同所有のままだと相続財産である不動産の名義変更や預貯金の引き出しができず、非常に不便な状態になってしまうからです。遺産分割協議をせずに勝手に相続財産を消費したりすれば、後に裁判によってその返還を請求されたりという不利益を被ることにもなりえます。

 遺産分割協議は、相続人全員の同意がなければ成立しません。何らかの事情で相続人のうち一人でも内容に同意しなかったり、協議ができない相続人がいる場合には、調停等の裁判所の手続きを利用して解決することになります。

 

遺産分割の方法

①遺言による指定分割(民法第908条)

 被相続人が作成した遺言に従って、相続財産を分割する方法です。 

 遺言は法律の定める方式によって行うことが必要であるため、方式に従っていない遺言書は無効となり、法的効力もないので注意が必要です(民法第960条)。

②協議による遺産分割(民法第907条)

 共同相続人全員によって相続財産を分割する手続きです。共同相続人は、被相続人が遺言で遺産の分割方法を指定した場合や分割を禁じた場合を除き、いつでも遺産の分割をすることができます。

 協議による遺産分割が成立するためには、共同相続人全員の合意が必要であり、一部の相続人を排除した協議は無効となります。全員の意思の合致がある限り、分割の内容は共同相続人の自由に任されています。

 協議によって共同相続人全員の合意が得られた場合、再度争いや揉め事が起こらないようにするために、合意ができた証明として遺産分割協議書を作成しておくべきです。

③調停による遺産分割(民法第907条2項)

 遺産分割事件においては、相続財産の分割とは無関係な長年の親族間の問題が蒸し返されることが多く、当事者同士の協議ではなかなか話が前に進まず、遺産分割の合意が成立しないことも多いです。

 遺産分割協議がまとまらない場合や協議ができない場合には、家庭裁判所に分割の請求を行うことができます。調停による遺産分割は、調停委員又は家事審判官が話し合いの斡旋をしてくれる点と、合意が成立した場合に調停調書が作成される点に特徴があります。調停調書は判決と同様の効力を持ちます。

④審判による遺産分割(家事審判法第26条)

 遺産分割調停が不成立となった場合、審判手続きに移行します。審判による分割の場合、家庭裁判所の審判官(=裁判官)が民法906条に従って、裁量的に各相続人の相続分に応じて分割の内容や方法などを判断します。調停が「話し合いの場」なのに対して、審判は「裁判所が決定を下す場」になります。

 審判は家庭裁判所の家事審判官が被相続人の状況、財産内容、相続人の状況や要望、経緯等全てを勘案して遺産分割方法を決定し、審判を下します。

 審判の内容について異議や不服がある相続人は、審判が下された日の翌日から二週間以内に「即時抗告」をすることができます。審判をした家庭裁判所に即時抗告の申立てをし、抗告審は高等裁判所で行われます。期限までに何もしなければ審判が確定し、相続人はその内容に従わなければなりません。

 

遺産分割調停はどのくらいの期間がかかるのか

 遺産分割調停は、事案によって異なりますが、解決までに短くても数か月、通常は1年前後かかります。

 紛争が長期化すると、当事者の精神的負担が大きくなってしまいます。争いが生じないようにするために事前に遺言書を作成しておくことや、相続が発生した初期の段階から専門家のアドバイスを受けることが重要です。

 

遺産分割協議を始めるためには

①まず相続人を確定する必要があります。

 なぜなら、遺産分割協議には相続人全員の同意が必要だからです。もしも話し合いがまとまってから新たな相続人が見つかった場合、もう一度話し合いをやり直すことになるかもしれません。

 そうした事態を避けるために、最初に「これ以上相続人がいない」ことをしっかり確認しておかなければなりません。そのためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本などをすべて調べる必要があります。

 法定相続人と法定相続分については、以下の表のとおりです。

 

法定相続人

法定相続分

 

②次に、相続財産を確定する必要があります。

 被相続人の財産及び借金について調査し、相続財産となるものを確定します。金融機関に残高照会をしたり、証券会社に株式保有数を確認したりといったところです。不動産については名寄帳を取り寄せたり納税通知を探すことになります。

☆こうして相続人と相続財産が確定した時点で、話し合いを始めます。話し合いの結果は、「遺産分割協議書」にまとめます。遺産分割協議書をどのように作成するかは自由ですが、分割すべき全ての財産について、誰が、何を、どれだけ受け取るのかがわかるように記載することが重要です。

 このように遺産分割協議書は慎重に作成する必要があり、いったん作成された協議書の解除は極めて困難です。協議書の作成で失敗しないために、専門家と協力しながら作成を進めることをお勧めいたします。

 

さいごに

 遺言書が存在しない場合には、残された相続人間の話し合いによって、遺産分割の方法を決めることになります。うまく話し合いがまとまれば良いのですが、揉めてしまうこともございます。相続人間のトラブルを未然に防ぐためにも、事前に遺言書を作成されておくことをお勧めいたします。

 ただし、遺言書の作成には専門的な知識が必要であり、その後の相続人手続が円滑に行われることまで踏まえた遺言内容にしておかなければ全く意味がありません。専門家に相談してきちんとした遺言書を作成されることをお勧めいたします。

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筆者紹介

柳沢 賢二
柳沢法律事務所
弁護士

一、弁護士として、依頼者のために、一つ、一つの案件について、専門家としての①専門性の高いサービスを、②迅速に提供することを心がけています。そして、常に依頼者のために、一つ一つの案件を全力で取り組んでいきます。

二、今、高齢者社会において、相続の問題は誰もが直面する重要な問題だと思います。今までの自分の人生の集大成を納得のいく形で終えれるように、残された家族の方々が困らないように、専門家として皆様の力になれる適切な解決方法の提案やアドバイスをしていきたいと思います。

三、相続の分野でも、紛争後の裁判所での訴訟業務だけでなく、紛争を事前に防ぐ予防法務的な視点から、遺言書の作成、任意後見・成年後見の活用、事業承継のアドバイスなどにも力をいれ、皆様の力になれるアドバイスをしていきたいと思っています。

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